充実

2月5日、相良組追い出し試合。シーズン中の大怪我で復帰が叶わなかった鏡鈴之介副将もアカクロジャージを着て、上井草のグラウンドで同期と最後の時間を過ごします。試合後、充実の表情で4年間を振り返ります。

「色々いい事もあれば、悪い事もあったのですけど、いろんな人に助けられて僕の4年間、人生があるのだと認識させられました。先輩、後輩、同期全員から支えてもらいましたし、色んな人に感謝しています。」

早大学院からワセダへ。下級生時代はジュニアチームで経験を積み、3年生時には自身も思い出に残っているという秩父宮の筑波戦で対抗戦デビュー。迎えた勝負のラストイヤーは春季大会開幕から背番号5で出場、レギュラーポジションを掴みかけた矢先、練習中に左足を負傷、長期離脱を余儀なくされます。焦りを感じながらも復帰を目指して2回の手術、その後のリハビリを続けながらも、術後の経過が思わしくなく…

「復帰できないと言われました」ー。

アカクロジャージ、そしてグラウンドに立って『荒ぶる』を歌うという目標が突然奪われ、簡単には気持ちを切り替えられず。そんな鏡副将の背中を押したのはチームメイトのフォロー、そして大田尾竜彦監督の言葉でした。

「終わって振り返った時に後悔があってもよいから、とにかく今その瞬間に後悔しないような行動をとりなさい…と。その後の自分の軸になっている言葉です。」

自分自身に出来ることを見つめ直した時に、気になったのはチームの雰囲気でした。コミュニケーションの中で要求しあう事を求めていた春先、その『要求』が悪い方向に行ってしまった事もあると振り返ります。

「ミスに厳しいのは良いのですけど、人にベクトルを向けて、人のミスを咎めすぎたり、汚い言葉も出ていました。そういう場面も見られて、委縮する選手がいたり、上級生に気を遣う下級生がいたり…。」

Aチームにあがったばかりで馴染めていないメンバーに寄り添いながらフォロー。そして影響力の強い主力選手に対しては

「感情の思うままに発言するのではなくて、言葉の重みとかを考えてもらったり、(主力選手が)将来リーダーになった時のことを考えてもらったり。そういう中で思ったことを言えるように導いてきました。」

自身もジュニアチームの経験が長かったこともあり、下のチームのメンバーに対しても対話を意識します。

「試合に出られなくても、副将って影響力が強いので。影響力がある人間がいろんな人と話すことで、少しでもチームの一体感になればと思っていましたし、少しでも下のチームの子たちが上のチームにあがれるように貢献しようと思っていました。」

公式戦が始まると相手チームのラインアウトの分析も担当、特にシーズン終盤は練習が始まるとコーチのようにBチームの傍で相手チームの動きを指導、「試合でハマっているシーンが多くて、良かったなと…」と観客席から喜びます。

グラウンド内外でチームを支える副将の姿を相良昌彦主将は

「僕を支えようとしてくれていました。僕がやらないような事…ラインアウトや後輩たちとコミュニケーションを取ったりとか、時間がかかってそこまではできないな…という部分をあいつ自身考えて補完してくれていて、助かりました。」

11月の対抗戦・帝京戦後にはAチームのFW陣だけでミーティングを実施、上級生、下級生の風通しがよくなると、12月には4年早明戦で下のチームが闘志むき出しで戦い抜き、4年生の意地を見せるなど節目節目となるイベントを通して、春先バラバラだったチームは冬を迎えて結束が一気に強くなります。

「みんなで一つのミスを取り返そうとチームになっていました。辛い時に助け合える関係になって、チームが成長しているように見えました。めちゃくちゃ下手な代でしたけど、この代で良かったなと…。熱い思いを持った人がいて、いい仲間に出会えてよかった。」

最終学年の大怪我、それでも前を向いてチームに尽くし続けたラストイヤー。チームを支えたはずの副将は逆に自身が支えられたと振り返ります。

「結構、今までの人生で、自分で勉強を頑張ったりとか、ラグビーでも何とか自分の努力でAチームになったりとか、自分にフォーカスして自分で何でもできると思っていたのですけど…。その裏に色んな人の支えとかを感じさせられる経験をして、支えてくれる人がいることの有難さと、そういう人たちがいて、自分の立ち返る場所があるというところ、それが4年間で一番得たものかなと思います。」

早大学院時代からの同期・川下凛太郎主務は鏡副将について「頭がよくて器用な人間。オールラウンドに何をやっても大体はうまくやってくれる。自分に与えられた環境とか、それが良いものでも悪いものでも、どんな場所にいても最高のパフォーマンスをやってくれるところが鏡の凄さ、チームを支えてくれて感謝しかない。」と話します。

追い出し試合、ゆっくりとタッチライン際を歩きながら鏡副将がトライ、チーム相良の上井草でのラストシーンはインゴールに生まれた鏡副将を中心とした同期の大きな祝福の輪でした。【鳥越裕貴】



追い出し試合でトライをあげて仲間の祝福を受ける鏡鈴之介副将(右端)。社会人に向けて「大田尾さんから言われたことはぶらさずに、これからも決断する時の軸でありたい。色んな人と対等に話せるように、今の副将として学んだ立ち回りを続けていけるように、自分に奢らずにやっていけたらと思います。」

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